7月16日に各紙・番組で取り上げられていたこのニュース、ご覧になった方がいるかもしれません。魚は減ってるはずなのにどういうこと??と疑問に思われた方向けに、とりあえずのショート解説をしておきますね。

結論から言うと、太平洋クロマグロ(本まぐろ)は本当に増えています。

詳しくは今後この部屋でお伝えしていくつもりですが、水産資源を”守りながら獲る”ためには、それぞれの魚種が卵を産み、増えていくペースを超えない漁獲量を守ることが大切です。禁漁期を設定したり漁具を制限したりといった管理手法もあるけれど、科学的根拠に基づいた漁獲枠を設定する=魚を獲る量自体をコントロールすることが最も効果的、と考えるのがグローバルスタンダードの現在位置。ノルウェーやオーストラリア、アメリカなど、欧米諸国にはこの手法を20世紀後半から導入し、水産資源管理に成功してきた国が多くあります。

ですが実は、日本がこの管理手法に力を入れ始めたのはつい最近のこと。域内に3,700種の水産生物が生きる、広大で豊かな海を持ち、国民はおよそ400種類の魚を食べてきたと言われている日本ですが、なんと漁獲枠が設定されている魚種は2024年現在でも、たった10種なんです。(マイワシ、マアジ、マサバ&ゴマサバ、サンマ、スケソウダラ、ズワイガニ、太平洋クロマグロ、スルメイカ、カタクチイワシ対馬暖流系群、ウルメイワシ対馬暖流系群)

そしてこの10種のなかで、この管理手法がもっとも有効に機能しているのが太平洋クロマグロです。


image.png 226.65 KB出典:「太平洋クロマグロの資源管理について」水産庁


上記は、1950年代から2012年までの資源量推移グラフです。太平洋クロマグロは20世紀後半、乱獲等によりその数を大きく減らし、2014年に国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種(リスクが3番目の「Ⅱ類(危急)」)にも指定されました。そのような状況を、太平洋クロマグロの資源管理を行う国際機関(※1)WCPFCが重く見たことから、同年の国際会議で30kg未満の小型魚(メジマグロですね)につき、総漁獲量を2002-2004年平均水準から半減する措置が決定され、翌年から関係各国で実施されました(※2)。

※1: マグロ・カツオ類は広い海域を回遊するため、一国のみでなく複数国が参加する国際機関によって資源管理がされています。中西部太平洋はWCPFC、東部はIATTC、大西洋はICCAT、インド洋はIOTC、南半球はCCBSTという国際機関があります。    //www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h28_h/trend/1/t1_1_3_2.html
※2:まず最初に未成魚である小型魚を守る、という戦略もグローバルスタンダードです。産卵できる成魚になる前に漁獲することは、資源減に直結するからです。国内漁業への配分方法など詳細はまたいずれ^^


30kg以上の大型魚に関しては2002-2004年の平均水準から増加させないなど、他にもさまざまな細かいルールが制定されました。日本の国内漁業としては初めてとなる国際レベルの厳しい漁獲規制導入は、国内での漁獲枠配分のバランス課題も含め漁業現場の混乱を生み、本当に大変だったようです。私もいろんな漁業者さんから苦労話を聞いてきましたし、悔しさややるせなさを感じたことも多く、行政にはこの経験を糧に、今後の他魚種管理に生かしていただきたいと思っています。(一方で、この規制をきちんと国内に導入できたことに関しては、かなーーりの困難を極めたはずでリスペクトです!)

さてさて、この厳しい管理を導入して以降、苦しい時期を皆で乗り越えた結果、今(2022年推計)はどんな状況かといいますと、、、



コチラです!!


image.png 226.96 KB(日本経済新聞さん作成の図をお借りしました💦)


2015年の漁獲規制導入からわずか7年間で、資源が急回復していることがわかります。クロマグロは3歳から卵を産みはじめ、また一度に産む数が多いことから、資源回復しやすい魚種とも言われているそうです。

”日本海では 3 ~ 6 歳(120 ~ 150cm)で約 640 万粒、南西諸島付近では 10 歳以上(200cm 以上)では約1500 万粒の卵を産むことも分かりました”



httpswww.jfa.maff.go.jpjsuisins_kouikitaiheiyoattachpdfindex-89.pdf.jpeg 347.59 KB出典:「太平洋クロマグロの資源管理について」水産庁


実際いろんな漁業者さんに聞いても、クロマグロの増加は海で目視できるレベルにもなっているそうですよ。あちこちでマグロが跳ねている、とか、定置網に一気に群れが入って(漁獲枠オーバーなので)困っている、とか。実際、水産庁の方々も「今年こそ枠増大だ!!」という体制で会議に臨まれていたので、漁獲枠拡大決定のニュースはとても嬉しく聞きました。もちろんまだ「資源潤沢」と言えるレベルにはなく、今後も慎重に研究を重ねながら、科学的根拠に基づいた枠設定を続けていくことは大前提ですけれど、ね。

太平洋クロマグロの資源増加は、日本が初めて国として取り組んだ資源管理成功例です。水産資源は”守れば増える”んだ、ということを広く明示した魚種であり、資源管理において先行した大西洋クロマグロも含め、お客さまにも明るいストーリーを伝えられる魚です。(もちろん、密漁や不法漁獲のものは除きます)。今後、この増えた漁獲枠を国内でどう配分するか(沖合漁業と沿岸漁業の間で、もしくはそれぞれのカテゴリーの中の個別配分も)で現場はひと揉め(汗)あると思いますが、それは嬉しい悩みとも言えますよね。

PS: トップ写真は2017年、@ヨネ @TAMURA と一緒にマグロのセリ@築地を最後に見学した際のもの。懐かしいなあ。。